網膜静脈閉塞症の診断と治療
網膜静脈閉塞症は網膜から心臓に戻る静脈が、血栓形成によってふさがる病気で、いずれも高血圧や動脈硬化が原因となります。
閉塞する場所によって網膜中心静脈閉塞症(CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に分けられます。
網膜中心静脈閉塞症(CRVO)
静脈の視神経に近い太い部位が閉塞を起こします。その結果、網膜への血液と酸素の供給が滞り、低酸素状態となってVEGFという物質が分泌されます。このVEGFによって血管透過性が亢進し、かつ閉塞した静脈内圧の上昇により血液中の血球成分と血漿成分が血管からもれだし、出血や網膜の腫れ(浮腫)をおこし、視力が低下します。
虚血型と非虚血型
網膜中心静脈閉塞症(CRVO)は、網膜への血流がどの程度維持されているかによって、「虚血型」と「非虚血型」に分けられます。虚血型では、視力が0.1以下に低下しており、数か月以内に血管新生を起こし、血管新生緑内障という難治性の緑内障を起こすことがあります。非虚血型では、それに比べて症状は軽く、無症状のものもありますが、発症後数年以内に虚血型に移行する例も30%程度あります。
実際のCRVO症例
実際の症例です。眼底写真では、網膜全体に出血があります。OCTAは、後述するように網膜の血流を測定する検査ですが、現時点では血流は保たれており、非虚血性CRVOと考えられます。OCTでは黄斑浮腫が見られます。
網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)
網膜中心静脈閉塞症よりも抹消の細い静脈が、動脈との交差部位で血栓ができるために閉塞します。それによって閉塞部位よりも上流の血管内圧があがり、血管から血液中の血球成分と血漿成分が血管外へもれだし、網膜出血と網膜浮腫を生じます。黄斑部付近に出血や浮腫が生じた場合には、急な視野欠損や視力低下を自覚しますが、それ以外の場所に生じた場合は無症状のため気付かず、その後に網膜に生じた新生血管からの硝子体出血によって視力低下を初めて自覚するケースもあります。
実際のBRVO症例
実際のBRVO症例です。眼底写真では、網膜の一部に出血を認めます。OCTAでは、虚血は認めません。OCTで断層撮影を行うと、出血に相当する部分の網膜が腫れており、浮腫をきたしています。
診断に必要な検査
眼底検査、眼底カメラ
瞳孔を開いて散瞳状態とし、眼科医が直接眼底を観察するとともに、眼底カメラで記録します。当院ではカールツァイス社製の走査型超広角眼底撮影装置 CLARUSを用いて鮮明な網膜の広角画像を撮影し、記録しています。
OCT(光干渉断層計)およびOCTA(OCTアンギオグラフィー)
OCTでは、網膜の断層像を取得し、網膜の浮腫(腫れ)の程度、場所を検出することができます。また、OCTAは近年新たに使用可能となった機器で、これまでは造影剤を点滴注入し眼底写真を撮影するという蛍光眼底造影(FAG)でのみ取得可能であった血流情報を、造影なしに簡便に取得可能としたものです。これにより、血管閉塞によって生じた無灌流領域や、新生血管の検出を行います。当院ではカールツァイス社製のCIRRUS HD-OCTを用いてこれらを撮影し、記録しています。
治療
網膜静脈閉塞症に対する治療には以下のようなものがあります。
内科的治療
網膜静脈閉塞症では高血圧や動脈硬化が原因となるため、内科でこれらに対する治療を行います。
VEGF阻害薬硝子体注射
もっとも視力回復が期待できる治療で、黄斑浮腫を有する場合には第一選択となります。当院では主にラニビズマブ(ルセンティス®)またアフリベルセプト(アイリーア®)を用いて治療を行っています。速効性がありますが、再発する症例が多く、繰り返しの注射が必要となることも多いです。
網膜レーザー治療(網膜光凝固術)
虚血性の網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に対しては、新生血管の発生を予防するため、網膜全体にレーザー照射を行う「汎網膜光凝固術」を行います。網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)では、OCTAによるアンギオグラフィーで無灌流領域を認める症例では、その部分にレーザー照射を行って新生血管の発生を予防することが多いです。
硝子体手術
新生血管が生じ、硝子体出血をきたした症例では、硝子体切除術が必要となることがあります。