眼外傷・眼球打撲
野球やサッカーのボールやバトミントンのシャトルが当たったり、手が当たったりして眼球を打撲した場合、次のような病態を生じます。
外傷性前房出血
眼球に外力が加わり、変形することによって組織が過剰に引き伸ばされることにより、虹彩や虹彩の付け根の隅角が断裂(引きちぎられる)し、出血します。出血は虹彩と角膜の間の前房内に貯留し、その影響で視力が低下したり、眼圧が上がり緑内障を発症したりします。上の写真の矢印の部分です。
治療としては、眼圧上昇に対しては、点眼や内服薬で眼圧下降をはかりつつ、消炎作用のある点眼薬を併用します。通常は経過観察で出血は徐々に吸収されますが、出血が多量の場合は手術で洗浄したほうがよいケースもあります。
隅角離開、隅角後退
眼に加わった鈍的な外力によって眼球が変形し引き伸ばされることにより、虹彩の付け根の隅角が引きちぎられ、出血を起こします。上の写真は、隅角鏡という特殊なレンズを用いて隅角を観察したもので、隅角に血液が貯留しているのが見えます。出血は経過観察で吸収されますが、中には数年後に緑内障を起こす症例があります。
外傷性散瞳
外力によって虹彩に圧力がかかり、虹彩括約筋という虹彩を縮める筋肉が障害され、散瞳状態となります。多くは前房出血を伴います。瞳孔が広がるため、羞明(まぶしさ)を感じることがあります。
外傷性白内障
外傷後、数か月~数年を経て徐々に進行する白内障です。受傷時は前房出血を伴うことが多いです。白内障が進行し、視力が低下した場合は、手術が必要となります。その際は、水晶体を支える靱帯であるチン氏帯が脆弱(弱っている)である可能性があり、眼内レンズを水晶体嚢内に通常通り固定できない可能性があります。CTR(水晶体嚢拡張リング)というデバイスを使用したり、あるいは眼内レンズの固定方法を変更するなど、手術実施の際には細心の注意を要します。
網膜振盪
眼球打撲後にみられる網膜の白濁(白く濁る)です。鈍的外力によって網膜の視細胞に衝撃が加わって障害され、腫れて浮腫を起こすので、白濁して見えます。Berlin(ベルリン)混濁とも呼ばれます。上の写真の矢印部分です。
軽度な場合は受傷後、1週間程度で網膜の白濁は自然と改善してきます。
ただ、障害が高度な障害の場合、網膜壊死を起こすことがあります。これを網膜打撲壊死といいます。網膜全層の不可逆的な障害で、網膜機能低下の後遺症が残ります。
外傷性網膜剥離・網膜裂孔
網膜に開いたあなのことを網膜裂孔、そこから網膜の裏側に水が浸入して網膜が眼球からはがれてしまうのを網膜剥離といいます。外傷によって網膜にあなが開くのには2通りあり、衝撃によって先に述べたような網膜の打撲壊死が起こり裂孔が形成される場合と、もともと網膜格子状変性など弱い部分があり、そこが外傷によって眼球が変形して引き伸ばされ、網膜裂孔を生じる場合があります。
裂孔が大きくなく、周りに網膜剥離がほとんどない場合には、外来でのレーザー治療(網膜光凝固)が可能です。下の写真では、弁状の網膜裂孔の周囲に施したレーザー痕が白い多数の点として写っています。
裂孔が形成される際、網膜の血管より出血すると硝子体出血となります。通常は時間の経過とともに吸収傾向となります。網膜裂孔が大きかったり網膜剥離の範囲が広い場合はレーザー治療ができず、入院しての手術が必要となります。